山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

 【昔のレビューをもう一度】『イタリアは呼んでいる 』──記号満載「ミニミニ大作戦」(笑)(★★★)

●懲りもせず、続編『スペインは呼んでいる』が出ているそうである。こちらとしては、スペインはお先に呼ばれてしまって、満喫してしまったので、「後追い」はしない(笑)。

『イタリアは呼んでいる』( マイケル・ウィンターボトム監督、2014年、原題『THE TRIP TO ITALY
』) 2015年6月10日 20時40分(2014)

なかなか凝った作品ではある。しかし、この邦題は、なんとなく、あの、ジュリア・ロバーツの『食べて、祈って、恋をして』(2010年)のような、イタリア観光映画を思わせる(事実、本編でも言及されるが)が、そういう類の映画ではない。原題が、The trip to Italy「イタリアへの旅」と、あたりまえすぎるのは、あのバイロン卿とシェリーの足どりを追っているし、そのパロディなのかもしれない。この映画の裏には、たえず、ケン・ラッセルの『ゴシック』(1986年)がちらつく。詩人、シェリーは身重の妻を残し、メアリーと駆け落ち、バイロン卿のスイスの邸宅に落ち着く。メアリーの義理の妹のクレアを含めて4人でイタリアを旅する。船遊びのシェリーがイタリア沖で水死。荼毘に伏す──。そんなストーリーで、ガブリエル・バーン演じるバイロン卿は、ジュリアン・サンズ扮するシェリーに恋していたのだった──。
 こういう下敷きのもとに、イギリス中年男二人が、ミニ・クーパーでイタリアを旅する。ここでも、マーク・ウォールバーグが主演、エドワード・ノートンシャーリーズ・セロンなど豪華キャストで、ミニ・クーパーを駆ってイタリアはベニスの狭い道をスイスイ走りまくる、『ミニミニ大作戦』(2003年)を思い出す。この作は、1969年作の焼き直しでもある。……てな具合で、主役二人の物まね合戦、文学談義もさることながら、映画においても、パロディやらオマージュ満載で、一時として休まるヒマを与えない映画である。
 観光案内でもなくドタバタでもなく、メロドラマでもなく、やはり、イタリアが生んだ記号学ウンベルト・エーコもマッツァオの、記号てんこもりの知的な映画なのだが、どこか魅力に欠ける。マイケル・ウィンターボトムといえば、お貧乏な子だくさん一家の、貧乏だけど、それなりにしあわせ……かもの『愛しきエブリデイ』とか、アンジェリーナ・ジョリーが仏人ジャーナリストの創価学会員に扮して、仏壇の前で「南無妙法蓮華経……」と言っていた奇妙さが印象的な『マイティ・ハート』とか……決してエンターテインメントの心地よさは味あわせてくれない監督だが、今回もそうでした(笑)。
 一昨年、「イタリアに呼ばれて」イタリアに行った私ですが、今回は「呼ばれませんでした」。よかった〜(笑)。


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スペインの赤ワイン