山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『中国の隠者』──1973年岩波発の驚愕の「お手軽本」 のアンコール復刊 

『中国の隠者』(富士正晴著、1973年10月岩波新書初版、2013年4月復刊)

「中国の隠者」という題名は確かに関心をひく。しかし、著者は中国の専門家ではなく、吉川幸次郎(中国文学者)や貝塚茂樹(中国歴史学者)の文献を引用して、私見(分析的というより、空想的なもの)をあれこれを書き連ねているだけ。一応、「アンコール復刊」の一冊で、そういう本は、なかなか中身の深い本があるが、こと本書にかぎっては、今のお手軽新書と全然変わらない。昔(1973年)にも、こういう「お手軽本」が堂々と、しかも「岩波」から出ていたというのは驚きである。漢書に関する書籍というと、漢字も多く、中身もありそうに見えるからか。こういう本で困るのは、テキトーな史実を書かれることである。
 曰く、「その証拠に、魯迅だって、毛沢東だって、大の君子ぎらいではないか。儒者ぎらいといってもいい」。されど、『論語』は中国では避けて通ることはできず、あの毛沢東でさえ、おろらく暗唱していたであろうと、吉川幸次郎は『「論語」の話 (ちくま学芸文庫)』で書いている。←この本の方を、強くオススメします。


「論語」の話 (ちくま学芸文庫)

「論語」の話 (ちくま学芸文庫)