山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

【詩】「新年の手紙」

「新年の手紙」

W.H.オーデンの、「A New Year Greeting 」という詩を訳そうと難儀して、これは、有名な長詩「新年の手紙」という作品とは、関係のない一篇で、科学雑誌に、書かれたもののようだ。しかも、発表時期は五月。
「新年の手紙」といえば、田村隆一だが、彼の詩は、大いにオーデンによっていて、「新年の手紙1」は、短く五、六行ほどで、「新年の手紙2」のなかに、オーデンの引用があり、それが、作品全体の三分の一ほどを占めている。かっこいい言葉がいろいろあるが、それは、全部オーデンのもので、しかも訳は、中桐雅夫だ。とにかく、材木座だかなんだか、そのお寺の除夜の鐘の音を聞いたら、干潮の海岸で、海まで歩こうぜ! なんて、「1」でも「2」でも書いている。ったく、いい気なもんだ。
あ、これは、あなたに出すべき手紙だったが、いつものように、独り言口調になってしまった(笑)。
そう、田村は、あなたの「恩人」とかで、結婚式にも出てもらったとか。その時のご祝儀代わりに書いた詩は、今でも、彼の作品集のひとつに入っている。しかし、あなたは別れてしまって(爆)、豪華な引き出物も、宙に浮いた。
田村の「新年の手紙」は、大した作品じゃないと思います。
一方のオーデンは、かなり難儀な詩人で、逆T.S.エリオットというか、イギリス人からアメリカ人になった人です。
まさに、エリオットが育ったニューヨークへ行って定住した。その後も、ヨーロッパを転々、亡くなった場所は、ウィーンです。
なんでかなー?と思ったら、理由は、ゲイだったからです。確かエリオットもゲイだったと思うけど、やはり、ニューヨークの方が住みやすいでしょうね。
オーデンの若い時の写真は、アメリカ映画の青春ものに出ていた俳優に似ていて、その横顔は、高い頭頂部が特徴で、前でぱっつんした坊っちゃん刈りの髪型も、その俳優に似ているのだった。
六十代で死んだけど、晩年の写真はしわしわで、象のようである。
ああ、なにが言いたかったのか。けれど、私は、このオーデンと、少しつきあってみるつもり。彼の「A New Year Greeting」は、ウィルスの世界を書いている。ウィルスレベルの「創世記」になっている。だから、この New Yearは、世界の始まりを意味しているようだ。
そして、例の詩集になっている長詩「New Year Letter」はアメリカで出版された時のタイトルで、それ以前だったのか、イギリスで出版された時は、「The Double Man」となっているそうだ。
ミステリーでも、イギリスとアメリカでは、題名が違うことはよくある。
田村隆一は、その「新年の手紙」を誰にあてて書いたのか? 「きみ」とあるから、若い詩人か?
あなたへのこの手紙は、どこへ出せばいいのか? この世か、あの世か。消息不明。生死をあえて知りたいとは思わない、まるでオーデンの生のように複雑に関わり合ったあなただが。