山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『妻への家路』──やっぱり、チャン・イーモウなのか(★★★★★)

『妻への家路』(チャン・イーモウ監督、2014年、原題『歸来/COMING HOME』

 ひさびさのチャン・イーモウコン・リー。「世界中が涙」とパンフにあったが、な、泣けない……。確かに映像もすばらしく、コン・リーの演技もすばらしく……であるが、なぜだろう? すでにテーマが時代遅れのせいもある。確かに、文化大革命の残した傷跡というのは、あるだろう。しかし、今の中国はいったいどうなっているのか? 歴史を描くとしても、今の中国人の視点から見た歴史でなければならない。文革の放下より帰還という映画は、ほかにもあったように思う。それらと比べて、とりわけ抜きんでているわけではないと思った。ただ、さすがに、物語を紋切り型に収めず、妻の記憶は戻らず、「知人」として彼女が「夫」を迎えに、毎月「5日」に駅へ行くのに寄り添い続ける夫は、もしかして、自分自身の帰還さえ待っているのかもしれないということを考えさせた。そういう意味では、やはり、チャン・イーモウなのか。音楽は、かなり洗練されている。