山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『マネーモンスター』──ジュリア・ロバーツの演技が心地よい(★★★★★)

マネーモンスター』(ジョディ・フォスター監督、2016年、原題『MONEY MONSTER』)

 どちらかというと軽い番組が得意なテレビ局の、エグい財テク・ショー番組。司会のジョージ・クルーニーは、毎回オープニングで、コスプレで踊る、チャライ男。そんな番組の言うことを本気にして、6万ドルを損してしまった若い男が番組ジャック。クルーニーを人質に取り、真相を放送しないと、クルーニーを殺すと、クルーニーに時限爆弾をくっつけたベストを着せ、スイッチを見せる。すべては放送中で、放送はそのまま続行される。
 題名も『マネーショート』に似ているが、それをパロッた感もある。だが軽い雰囲気はどこにもない。
 すぐに警察の特殊部隊の狙撃手が、天井その他から「犯人」の男を狙っている。男の言い分を聞き、この財テク番組の芯を担当しているらしい証券会社(?)が使っているアルゴリズムの正体が暴かれる。アルゴリズムは韓国のプログラマーが作っており、そのプログラマーまで辿り着き、意見を聞くと、アルゴリズムが大きく外れることはないという。彼は、「人間の指紋が至る所についている」と示唆する。つまり、人為によって、大暴落が操作されたがことがわかる。
 つまり、テレビジャックに始まり、関係会社のCEOの不正が明かされるのである。この事件の「生放送」を演出するのは、ディレクターのジュリア・ロバーツである。彼女の的確な判断によって、テレビジャックは、思わぬ方向へ進んでいく──。
 おバカなクルーニーが、正義に目覚め、テレビジャックの青年に味方し始める。監督ジョディ・フォスターは、既視感のある設定から、ここのところを描きたかったのだと思う。これには、クルーニー、ロバーツ、オコネルの、三人の俳優が必要だった。オコネルの恋人役の女優も、キレ方がすばらしい。映画における事件の緊迫感は、ストーリーが作るのではなく、俳優の集中力が作っている。日本でも似たような作品が作られるが、俳優の演技の質がまったく違う。とくに、ジュリア・ロバーツの集中力には天性のものを感じる。スタッフへの短い指示やクルーニーへの助言だけで、このディレクターの人となりを表現している。

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