山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『ライ麦畑で出会ったら』──今さらサリンジャーでもないが(★★★)

ライ麦畑で出会ったら』( ジェームズ・サドウィズ監督、2015年、原題『COMING THROUGH THE RYE』)

 2015年の作である。今さらサリンジャーでもないだろうが、色合いとか雰囲気はなかなか「見せる」ものはある。主人公の真面目さもよいし。しかし、サリンジャーって、ブームにはなったが、それほどの作家だろうかというのもある。作中、『ライ麦畑で捕まえて』の登場人物の名前があたりまえのように出てきて、サリンジャーシェークスピアじゃないだろー?(笑)って感じだ。
 サリンジャー探しはいいが、期待したほど「文学的」でないのが残念である。結局、クリス・クーパー(唯一の有名俳優)分するサリンジャーも、姿は似せているのかもしれないが、人物的魅力がなく、焦点がボケたものになっている。それでも、この時代(1969年)をリアルに描いてはいる。こういうさりげない誠実さには好感が持てるのだが。映像は美しく、音楽も抑え気味のノスタルジーが現代との絆を保っている。