山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

映画

『オンリー・ザ・ブレイブ 』──合掌(★★★★★)

『オンリー・ザ・ブレイブ』(ジョセフ・コシンスキー監督、2017年、原題『ONLY THE BRAVE』) 大昔から、森林が存在するところ、山火事は存在した。湿度が極端に低い地域ではなおさらである。昔は、その山火事が、生い茂る木々を淘汰することにもなったと思…

『告白小説、その結末 』──メタ・フィクションの失敗作(★)

『告白小説、その結末』(2017年、ロマン・ポランスキー監督、原題『D'APRES UNE HISTOIRE VRAIE/BASED ON A TRUE STORY』) 原作の題名は、直訳すれば、「事実に基づいて」(名詞ではない)であり、d apresは、「~基づく」である。それが終盤、Apres d une…

「映画『パンク侍、斬られて候』における、脚本宮藤官九郎のお手柄」

宮藤官九郎が属する劇団「大人計画」には二種の芝居があり、リーダーの松尾スズキ作・演出のものと、松尾が見出した役者だった、宮藤官九郎(クドカン)が作・演出の芝居と。後者の方がキレがあり、笑える率も高いのだが、どちらの芝居にも二人とも出ている…

『パンク侍、斬られて候』──おバカ映画に徹しきれない凡作(★★)

『パンク侍、斬られて候 』(2018年、石井岳龍監督) どうせ「アンアン」かなんかに十数年前に連載したパンクなんでせう? あの時代パンクでも今はどーよ? 連載小説は、とにかく「書き上げることができる」、このおかげで、かろうじて作品になっている「時…

『焼肉ドラゴン 』──根岸季衣贊江+★(★★)

『焼肉ドラゴン』(2018年、鄭義信監督) 本作の監督は、脚本で賞を取ったというが、脚本がひどいと思った。1970年前後、大阪万博で湧く大阪の片隅の「国有地」らしき場所に、トタン屋根のバラック群。その奥に、「焼き肉ドラゴン」と呼ばれる店。集まってい…

『女と男の観覧車 』──「欲望という名の観覧車」(★★★★★)

『女と男の観覧車』( 2017年、ウディ・アレン監督、原題『WONDER WHEEL』) 本作は初めっから、「お芝居」であることが、ミッキーことジャスティン・ティンバーレークのナレーターによって明かされている。そう、これは、ニューヨーク大学で演劇を学ぶ、ぼ…

『万引き家族 』──確信犯的(★★★)

『万引き家族』( 監督是枝裕和、2018年、原題『SHOPLIFTERS』) 本作は、是枝作品としては決して最上の作とはいえず、かつ、カンヌ映画祭で、柳楽優弥に14歳で最年少主演男優賞をもたらした、『誰も知らない』の、自己模倣作品と言える。テーマ的には一歩も…

『ゲティ家の身代金 』──「カンヌ」なんてカンケーねえな(★★★★★)

『ゲティ家の身代金』(リドリー・スコット監督、2017年、原題『ALL THE MONEY IN THE WORLD』) 1973年に起こった、大富豪の孫の誘拐事件がもとになっている。1973年といえば、オイルショックの年である。日本では街中の灯りが消え、トイレットペーパーなど…

『犬ヶ島』──ゴダールはすでに終わっている(★★★★★)

『犬ヶ島 (ウェス・アンダーソン監督、2018年、原題『ISLE OF DOGS』) ウェス・アンダーソンは、世界でほぼただひとり、映画で「現代思想」を表現している作家だ。それは、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)の時にすでにその萌芽を宿していたが、…

『犬ヶ島』──ゴダールはすでに終わっている(★★★★★)

『犬ヶ島 (ウェス・アンダーソン監督、2018年、原題『ISLE OF DOGS』) ウェス・アンダーソンは、世界でほぼただひとり、映画で「現代思想」を表現している作家だ。それは、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)の時にすでにその萌芽を宿していたが、…

『ボストン ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~』──ジェイク、スター性をかなぐり捨てる (★★★★★)

『ボストン ストロング~ダメな僕だから英雄になれた~』(デヴィッド・ゴードン・グリーン監督、 2017年、原題『STRONGER』) 歌舞伎には「裏狂言」というものがある。たとえば、「四谷怪談」は、「忠臣蔵」の「裏狂言」である。「四谷怪談」の主人公、田宮…

ゴダール最新作『Le Livre d'image』(「イメージの本」?)ついて──ゴダールはどんどん新しくなる

ゴダールの新作『Le Livre d'image』(「イメージの本」?)の予告篇、といっても、ほんのさわりにすぎないが。これは、カンヌ映画祭のコンペティション作品に招待されている。 「シノプシス」の紹介によれば、かなり長い序章と、5章のエピソードで構成され…

『君の名前で僕を呼んで 』(2回目鑑賞)──オリジナルと反復

『君の名前で僕を呼んで』(ルカ・グァダニーノ監督、2017年、原題『CALL ME BY YOUR NAME』(2回目鑑賞) 前回観た劇場は画面が暗く、せっかく人工のライティングを導入せず、北イタリアの光と影を撮っているのに、不全感があったし、細部をじっくり確かめ…

『サバービコン 仮面を被った街 』──面白いのか面白くないのか、わからない(笑)(★★★)

『サバービコン 仮面を被った街』(ジョージ・クルーニー監督、2017年、原題『SUBURBICON』) この映画、面白いのか面白くないのか、わからない(笑)。ていねいな作り、ブラックユーモア、少年役の子どもの利発そうな表情、マット・デイモンの太ったオッサ…

『君の名前で僕を呼んで』分析

『君の名前で僕を呼んで』分析。 映画というのは、実は映画館に俳優を見にいくんですね。もちろん、その俳優とて生身の人間だから、実生活は、フツーの人と変わりがあるはずがない。しかし俳優という職業は、訓練によって肉体を作り、また演技術もマスターし…

『女は二度決断する 』──インフラがたがたのドイツを反映した映画(★★)

『女は二度決断する』(ファティ・アキン監督、 2017年、原題『AUS DEM NICHTS/IN THE FADE』) 経済優先しすぎで、橋や道路などのインフラががたがたというウワサのドイツと経済破綻したギリシアが、相互乗り入れしたような映画だ。 爆破犯のネオナチは、カ…

『君の名前で僕を呼んで 』──愛とは教養である(★★★★★)

『君の名前で僕を呼んで』(ルカ・グァダニーノ監督、2017年、原題『CALL ME BY YOUR NAME』) 愛とは教養である。教養がないと、「モーリス」映画を期待して外されたと悪態をついたり、ストーリーや演出の起伏がないなどと、自らのバカを露呈することになる…

『不思議なクニの憲法2018』福岡上映会のお知らせ

『不思議なクニの憲法2018』福岡上映会のお知らせ。 来てね~。 福岡市立中央市民センター(視聴覚室) 福岡市中央区赤坂2-5-8 2018年5月20日(日) 13:00~ 入場料1000円 主催:「不思議なクニの憲法2018」を観る会 問合せ:090-4776-1279 谷内 yachisyuso@…

シンシア・ニクソンのニューヨーク愛

すごい! 『さよなら、ぼくのマンハッタン』の主人公の母親役のシンシア・ニクソン(『セックス&シティ』では、弁護士役)が、民主党から、ニューヨーク州知事に立候補! すでに、同性婚もしている。以前、「男」との交際で、二児あり。やっぱり、ニューヨ…

『さよなら、僕のマンハッタン』──ニューヨークが呼んでいる!(★★★★★)

『さよなら、僕のマンハッタン』( マーク・ウェブ監督、2017年、原題『THE ONLY LIVING BOY IN NEW YORK』) マンハッタンの街で、文学作品からの引用が溢れ、スノッブたちの会話が乱れ、男女の思惑が入り乱れ……とくれば、ウディ・アレンの独壇場だろうが、…

『トレイン・ミッション 』──ダメなジジイが一番スゴイ(笑)(★★★★★)

『トレイン・ミッション』(ジャウマ・コレット=セラ監督、2018年、原題『THE COMMUTER』) のっけから、ダメなジジイ丸出しのリーアム・ニーソン。実際は65歳ながら、60歳になって警察からトラバーユした保険会社に勤めて10年たったところで、突然リストラ…

『レッド・スパロー 』──ヤンキー娘が英語で演じる性差別丸出しロシア女スパイ映画(★)

『レッド・スパロー 』(フランシス・ローレンス監督、2018年、原題『RED SPARROW』) スパイ映画が三度のメシよりすきな私であるが、本作は予告篇から食指が動かなかった。なんとなく、重そう、そして、「二重スパイ」は、あの人に決まってる(笑)。あけて…

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』──帝国主義者が魅力的では困る(笑)(★★★)

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男 』(ジョー・ライト監督、2017年、原題『DARKEST HOUR』) かつて日本には「バカヤロー」って言って国会を解散した首相がいたが、なんかそんなヒトを思い出したナ。「貧乏人は麦を食え」って言った…

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 』──志の高さとエンタメ性をみごとに両立(★★★★★)

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(スティーヴン・スピルバーグ監督、2017年、原題『THE POST』 大統領制のアメリカは、議院内閣制の日本と違って、行政府の長が、多数党から選出されるということはない。大統領は別個に選ばれる。しかも、大統領に…

『トゥームレイダー ファースト・ミッション』──ララ 3.0(★★★★★)

『トゥームレイダー ファースト・ミッション』(ローアル・ユートハウグ監督、 2017年、原題『TOMB RAIDER』) 17年前のアンジェリーナ・ジョリーは、三つ編み、巨乳を強調し、ゲームのララそっくりに作ってあった。本作も、ストーリー展開はほぼ同じ。冒頭…

『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』──聖なるギリシア悲劇は星では評価できない。(★★★★★)

『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』( ヨルゴス・ランティモス監督、2017年、原題『THE KILLING OF A SACRED DEER』) 確かに魅せる。ぐいぐい惹きつけられていく。惹きつけられながら、違和感が混じってくる。違和感に混じられなが…

『シェイプ・オブ・ウォーター 』──「半漁人」のキャラがたってない(爆)(★★★)

『シェイプ・オブ・ウォーター』(ギレルモ・デル・トロ監督、2017年、原題『THE SHAPE OF WATER』) 12年前の『パンズラビリンス』には確かに感心した。フランコ政権下のスペインで、苛酷な世界に生きる少女には、生の証としてファンタジーが必要だった。そ…

『15時17分、パリ行き 』──映画とは「再現」である(★★★★★)

『15時17分、パリ行き』(クリント・イーストウッド監督、2018年、原題『THE 15:17 TO PARIS』) 世の中には、繊細な味覚がまったく感じられず、アミノ酸たっぷりの、スーパーで売っている半額の弁当をうまいと思って毎晩食べられるヒトもいるし、物語ばかり…

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ 』──ソフィア・コッポラ、ガーリー脱して哲学女となる(★★★★★)

『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(ソフィア・コッポラ監督、 2017年、原題『THE BEGUILED』) 淑女が淑女候補たち(事情があって家に帰れない)を教え宿も提供する、森林の中の女学院。そこに一人の兵士(時はアメリカの南北戦争時代の終わり)が…

『エターナル』──細部が一挙に見せる物語の全貌(★★★★★)

『エターナル』(イ・ジュヨン監督、 2017年、原題『A SINGLE RIDER』) M・ナイト・シャマラン監督、ブルース・ウィリス主演の『シックス・センス』(1999年)、アレハンドロ・アメナバール監督、ニコール・キッドマン主演の『アザーズ』(2001年)と、同工…