山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

映画

『女王陛下のお気に入り』──ギリシア人監督に複雑な英国史は無理だった(笑)(★)

『女王陛下のお気に入り 』(ヨルゴス・ランティモス監督、2018年、原題『THE FAVOURITE』) 現代の物語でギリシア悲劇の構図を描いてみせた同監督の前作『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』 (2017)は、なかなか面白かったし、まあ、…

『ファースト・マン』──レトロ感漂う魂の映画にIMAXはいらない(★★★★★)

『ファースト・マン』(デイミアン・チャゼル監督、2018年、原題『FIRST MAN』) ひとはなんのために、宇宙開発をするのか? 虫の眼で見れば、覇権争いのためだろうか。ひとはいつから、いま自分が生活している場所から、空の方へ行って見ようと思ったのか?…

「私の三大恐怖映画」

「私の三大恐怖映画」 1, 『サスペリア PART2 』(1975) PROFONDO ROSSO/DEEP RED/THE HACHET MURDERS 監督ダリオ・アルジェント 1977年の『サスペリア』とは、監督は同じながら、関連性はない。『サスペリア』以前の制作ながら、日本に入って来たのは、『サ…

『未来を乗り換えた男』──意余って力足りず(★★)

『未来を乗り換えた男』(クリスティアン・ペッツォルト監督、 2018年、原題『TRANSIT』) ミケランジェロ・アントニオーニの『さすらいの二人』が意識されているのかどうか。死んだ男になりかわり、その男の妻に会いに行く──。魅力的な設定だ。ひとは誰でも…

『天才作家の妻 -40年目の真実-』──「あいまいな北欧の作品」(★)

『天才作家の妻 -40年目の真実-』(ビョルン・ルンゲ監督、 2019年、原題『THE WIFE』) 監督に関する情報はほとんどないが、名前はなにやらスエーデン風。しかもYahoo!リストにある作品は本作のみ。『ドラゴン・タトゥーの女』もそうだが、北欧が舞台で、北…

『マイル22』──スパイ映画のバージョンは完全に変わった(★★★★★)

『マイル22 』(ピーター・バーグ監督、2018年、原題『MILE 22』) スパイ映画というのは、米ソの冷戦時代に、イアン・フレミングなどが、情報に通じた作家として描いたのが黎明期であり、ある意味頂点であった。その後、米ソの対立は、東西の壁の崩壊と、「…

【映画2018ベスト10】

【映画2018ベスト10】 2018年、劇場で観た映画は、ちょうど50本。ピックアップしてみると、2017年に比べて充実した内容であった。ベスト10を選ぶために、よいものを抜き出してみると、17本あった。日本映画は数本観ただけだが、食指をそそるものがなかった。…

『アリー/ スター誕生』──女優誕生(★★★★★)

『アリー/ スター誕生』(ブラッドリー・クーパー監督、2018年、原題『A STAR IS BORN』) 4度目のリメイク作品になる映画である。本作以外の3作品とは、1『栄光のハリウッド』(1932年)ジョージ・キューカー監督、2『スタア誕生』(1954年)ジョージ・…

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』──今年なにもいいことがなかったと思っている人へ(★★★★)

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生 』(デヴィッド・イェーツ監督、2018年、原題『FANTASTIC BEASTS: THE CRIMES OF GRINDELWALD』) 作り物といえば、リアルな親子や恋人同士の葛藤も、作り物なのであるが、そういう設定だと、なぜかホン…

『ボヘミアン・ラプソディ』──ラミ・マレクはアカデミー賞を取れるか?(★★★★★)

『ボヘミアン・ラプソディ』(ブライアン・シンガー監督、 2018年、原題『BOHEMIAN RHAPSODY』) イギリス社会というのは、容易に移民を受け容れてくれるけれど一歩奥へ踏み込むと、異人種に対して徹底して扉を閉ざしていると、長年イギリスに住んでいる外国…

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ 』──超ハードボイルド(★★★★★)

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』 (ステファノ・ソッリマ監督、2018年、原題『SICARIO: DAY OF THE SOLDADO』) 前作で、ある意味正義の視点を持っていた、エミリー・ブラントが抜けて、むんむん男臭さ丸出しの二人のオッサンが残り、センチメンタル…

『ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲』──007のあとはシニアにおまかせ(★★★★)

『ジョニー・イングリッシュ アナログの逆襲』( デヴィッド・カー監督、2018年、原題『JOHNNY ENGLISH STRIKES AGAIN』) サイバー攻撃によって英国情報部の機密が漏れ、現役のスパイの「面」が割れてしまった。集められた引退スパイはジッサマばかり。その…

『ブレイン・ゲーム』──いい人になりたかったレクター博士(★★★)

『ブレイン・ゲーム』( アフォンソ・ポヤルト監督、2015年、原題『SOLACE』) 3年前の映画である。したがって、アンソニー・ホプキンスは「まだ」七十代。レクター博士は、よほど「いい人」になりたかったとみえて、本作を制作までしている。あの、前代未…

『華氏119』──マイケル・ムーアの革命待望論(★★★★★)

『華氏119』(マイケル・ムーア監督、2018年、FAHRENHEIT 11/9)) ドキュメンタリーというのは一見簡単なようで、難しい手法である。それが証拠に、ひとは、フィクションの方に感情移入する。しかし、そのドキュメンタリーを、フィクションのように構成し、…

『ライ麦畑で出会ったら』──今さらサリンジャーでもないが(★★★)

『ライ麦畑で出会ったら』( ジェームズ・サドウィズ監督、2015年、原題『COMING THROUGH THE RYE』) 2015年の作である。今さらサリンジャーでもないだろうが、色合いとか雰囲気はなかなか「見せる」ものはある。主人公の真面目さもよいし。しかし、サリン…

『デス・ウィッシュ』──クールガイに髪は要らない!(笑)(★★★★★)

『デス・ウィッシュ』(イーライ・ロス監督、2018年、原題『DEATH WISH』) リメーク版のもとになったという、チャールズ・ブロンソンの『狼よさらば』は観ていないが、いずれ、家族を殺された男の復讐劇なのだろう。しかし、「オリジナル」がどうあれ、主役…

『日日是好日 』──お茶を習うということ(★★★)

『日日是好日』(大森立嗣監督、2018年) 映画に刺激を求める人には完全に向いてない映画。物語は起こりそうでおこらない。あるのは、黒木華の、のっぺり顔のアップのみ。樹木希林も役不足のように思える。しかし、私もかつてお茶を、高校の先輩から習ってい…

『ヒトラーと戦った22日間』──ナチス版「出エジプト記」(★★★★★)

『ヒトラーと戦った22日間」( コンスタンチン・ハベンスキー監督、2018年、原題『SOBIBOR』) ヒトラーの『わが闘争』を読むと、ユダヤ人への嫌悪のはじまりが、ほんのささいな生理的なものであることがわかる。しかしその生理的なものは、抽象的な思想的な…

『イコライザー2』(IMAX)──デンゼル・ワシントンはCIAが最も似合う男(★★★★★)

『イコライザー2』(IMAX)( アントワーン・フークア監督、2018年、原題『THE EQUALIZER 2』) 時間の関係で、不本意にもIMAXで観たが、海辺近く&(なぜか)台風(笑)のシーンの戦闘は、すばらしいものがあった。すべてはここへ持っていくためのストーリ…

『クワイエット・プレイス』──新ET(★★★★★)(ネタバレ注意!!)

『クワイエット・プレイス』( 2018年、ジョン・クラシンスキー監督、原題『A QUIET PLACE』) ホラー映画に叫びは付き物だが、本作はその「必需品」が初めから禁じられている。どんなに叫びたい時でも、声をあげたら、地球を侵略している何者かに即刻襲いか…

映画『死にゆく者への祈り』

(顔面破壊前の)ミッキー・ローク主演『死ぬゆく者への祈り』(A PRAYER FOR THE DYING)(1987年)。マイク・ホッジス監督、ジャック・ヒギンズ原作。Iraのテロリスト、カトリック。

『プーと大人になった僕』──「ぼくたちにはプーが必要なんだ!」(★★★★★)

『プーと大人になった僕』(マーク・フォースター監督、2018年、原題『CHRISTOPHER ROBIN』) イギリスには、有名なクマが2匹いる。パディントンとプーだ。パディントンは、1958年代に発表された児童文学作品で、プーは、1926年にA.A.ミルンによって発表さ…

『判決、ふたつの希望 』──言葉の重さ(★★★★★)

『判決、ふたつの希望 』(ジアド・ドゥエイリ監督、2017年、原題『L'INSULTE/THE INSULT』 この映画では、われわれ日本人の常識とまったく違うことがあり、その事実がどんどんわれわれを引きつけていく。それは、言葉の重さである。言葉が具体的な暴力行為…

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ 』──ひさびさスポーツ根性モノ(★★★★★)

『バトル・オブ・ザ・セクシーズ 』(ヴァレリー・ファリス ジョナサン・デイトン監督、2017年、BATTLE OF THE SEXES) ウーマンリブ盛んな1970年代、女子テニスプレーヤーが男のプレイヤーと試合するという物語。カメレオン俳優のスティーブ・カレルがどこ…

『タリーと私の秘密の時間 』──性を超える女優セロン(★★★★★)

『タリーと私の秘密の時間』(ジェイソン・ライトマン監督、 2018年、原題『TULLY』) 最近の「ママ」といっても年代は幅広い。20代から40代まで、ざっと20年の開きがある。そのなかでも、比較的若年の層は、雑誌『Very』(実は自分も愛読しています(笑))…

『オーシャンズ8 』──男には向かない職業(笑)(★★★★★)

『オーシャンズ8』(ゲイリー・ロス監督、2018年、原題『OCEAN'S 8 』) 毎度シリーズを重ねてきた「オーシャンズ」であるが、本作を観るかぎり、犯罪、ことに盗みというものは、男には向かない職業だなとつくづく思う。第一男は、金ほしさに盗みを計画する…

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』──ヘンリー・カーヴィルさまへ+★(★★★★)

『ミッション:インポッシブル/フォールアウト 』(クリストファー・マッカリー監督、2018年、原題『MISSION: IMPOSSIBLE - FALLOUT』) 本作のおおもとになっている『スパイ大作戦』は小学校から観ている(って、テレビですよ!)私だが(ちなみに、トム・…

『カメラを止めるな! 』──よろしく、です。(★★★★★)(ネタバレ注意!)

『カメラを止めるな!』( 監督上田慎一郎、2018年) 連日満席の大評判映画で、Yahoo!レビューの解説を読んだかぎりでは、どこがおもしろいかわからない。1999年(もう、そんなにもなるのか!)の、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のような作品なのかな…

『ウインド・リバー』──見落とされてきたクライムサスペンス(★★★★★)

『ウインド・リバー』(テイラー・シェリダン監督、2017年、原題『WIND RIVER』) なにもかもが新しいサスペンスである。これまで故意にも無意識にも見落とされてきた場所、人々、テーマなどを取り上げ、見落とされてきた視点から描いている。殺人事件だが、…

『グッバイ・ゴダール!』──いかにもゴダールチックな偽物(★)

『グッバイ・ゴダール!』(ミシェル・アザナヴィシウス監督、 2017年、原題『LE REDOUTABLE/GODARD MON AMOUR』) 『ゴダール全評論・全発言』(筑摩書房)によれば、ゴダールはなによりも作家になりたくて、しかも、かなり長い間、評論を書き続けてきた。…