山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『新潮 2015年 08 月号』 ──「祝 原田宗典復活!」(★★★★)

『新潮 2015年 08 月号』(新潮社、2015年7月刊)

 今どき文芸誌を金出して買うなどというのは、よほど奇特な人だと思う。なのに、今号、本誌を買ってしまったのは、ひとえに、「あの」原田宗典(250枚一挙掲載)があったからである。「あの」というのは、やはり「クスリで捕まった」という事件の、である。「文学界の田代まさし」まではまだいってないとしても、「あの」田代まさしが、NHKの大河ドラマ準主役で「復活!」ぐらいの衝撃は、一部にはあったと思う。少なくとも私にはあった。確かに本作を読めば、「すごい情報」が書かれていました。川端康成が「ヤクを買っていた」とか、「自衛隊ではしばしば訓練中の事故死があり、テキトーに片付けられている」とか、きわめつけは、「日本人傭兵のハナシ」とか。あ、「逮捕前後」、「塀の中」の様子もね。これは、体験した人でないとなかなかかけない。ここでついでに、「新資料」を付け加えるなら、当方も、文芸誌に小説を何度か発表したことがあり、担当者からしばしば原田氏のことは聞いてました。この担当者は、自殺した作家の佐藤泰志も担当していて、担当中に亡くなったので、まー、佐藤泰志は死に、原田宗典は生き残ったのかな、という思いです。ほかに、ぴんぴんして活躍しているらしい奥泉光なんて作家もおりましたが。作家って、やはり大変なものだと思いますね〜。
 あ、この作品は、はっきり言って、作品になってない。書かれている事実はすごいけど。それだけ。なんか、プルースト風な構造を狙ったのかなとも思える終わり方ですが、いかんせん、「たったの」250枚ですから。しっかし、これを書いて、そのあと、なにを書くんですかね? このバリエーションといったところでしょうか? でも、一方で、ハリウッドで映画化したらおもしろいとも思いました。主演の「原田宗典」役は、ジョン・キューザックで。もう彼しかいないと思いましたが、思ったところでしょうがないけど(笑)。

 ほかの演し物。古井由吉→もうこのジジイのわざとらしい文章は読みたくもない。
 対談「古典=現代を揺らす」(町田康×古川日出男)→お里が知れる。果たして、どんな底本を、ほんとうに古文から訳しているのか? 案外、角田光代プルーストみたいなしかけではないのか? テキスト・クリティークの視点皆無の無教養さ。
 ……てなてなわけで、今回、原田さんのために、930円払いました。

新潮 2015年 08 月号 [雑誌]

新潮 2015年 08 月号 [雑誌]