山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『幸せをつかむ歌』──「物のあはれ」を知る女、メリル(★★★★)

『幸せをつかむ歌』(ジョナサン・デミ監督、2015年、原題『RICKI AND THE FLASH 』)

 押しも押されもせぬ大女優の演じる、ロックな痛いオバサン。ロック歌手の夢が捨てきれず、お堅い夫(どこで知り合ったのか?)と別れ、子ども三人も、幼少期に残し、「西海岸」で暮らすも、いつしかトシはとり、一度だけ「レコード」(だよ!)出したけど、今はしがない(やっぱり)ロッカー。「フラッシュ」というバンドを持ってる(原題は『リッキー(このオバサン、リンダの芸名)とザ・フレッシュ」)。安っぽいバーのような店で毎晩演奏はいいけど、それだけでは生活できず、スーパーのレジもやっている。バイト先でも、化粧は濃くて態度ふて腐れぎみゆえ、若い黒人の「スマイル主任」(?)から「お客さまに対するスマイル」を指導される始末。
 そんなオバハンに、元夫から「SOS」コール。彼らの娘が離婚してかなり落ち込んでいるので慰めに来てやってくれ。娘の結婚式にも出なかったのにぃ~?
 ぎりぎりの飛行機代でやってきました、インディアナ・ポリス。セキュリティ万全の高級住宅ゾーン。迎え出た元夫に、「タクシー代お願い」。なにもかもが贅沢なお屋敷と、文無し女。だが、娘は徐々に立ち直っていく。やはり、実の母だ。あ、夫の今の妻は、病気の父の様態伺いに出て留守である。元夫としては、ホテルへ送るつもりだったが、文無しなので、しかたなく自宅へ泊める。どうせ部屋はいっぱいあるんだ。あれこれ、家中覗いて、現在の夫の生活を知るロックオバサンのメリル。息子二人とそのうちの一人の婚約者を交えて、ひさびさ、「家族」での、お食事会。知らない事実はいろいろあったが、ま、いっかー。そのうち、現在の妻が戻ってくる。これが、よくできた女。一見したところ、アフリカ系。いくらよくできた妻でも、背中に星条旗(だったかな~?)の入れ墨のロックオバサンとは、合うわけはない。「普通に対立して」また西海岸へ帰って行くメリル。バンドのなじみのオトコがいるしねー。このオトコが、トシだけど、イケメンなんです(笑)。
 「このあいだは、ごめんなさい」と、できた妻からお手紙。息子の結婚式への招待状。もち、欠席よ! 交通費ないしー。だけど、オトコがギターを売って、金を作ってくれた。バンドの仲間もついてって。中流プロテスタントの、すてきなガーデン結婚式。チンチン、元母が、スピーチをします。そこで、「プレゼントの代わりに、歌います。ブルース・スプリングスティーンの……」
 舞台のお上品なバンドを追い払って、メリルのバンド、「ザ・フラッシュ」(って、ジジイばかりだけどサ(笑))が登場。がんがん、ロックをやる。まあ、困ったわね、と、客たちは顔を見合わせるが、まず、新郎新婦、つぎに、ゲイの次男とその恋人(中国系の男)、そして、離婚ウツから立ち直れなかった娘も、元夫とその妻も、ほかの招待客たちも、がんがん、ロックで踊り始める。
 メリルの歌もギターもホンモノで、「指導」には、ニール・ヤングのクレジット。どうだ? 大女優は、なんでもやるんだ、できるんだ!……てな映画(爆)。
 で、まあ、内容は、★二つか三つでしょうが、メリルのがんばりで、★は四つ! メリル姐さん、今回も、ごくろうさま!
 (なんたって、金のなさかげんが、うまい! やはり、「物のあはれ」を知る人だなあ……と)

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