山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『知性だけが武器である――「読む」から始める大人の勉強術』──今更ながらの水増し本(★★)

『知性だけが武器である――「読む」から始める大人の勉強術』(白取春彦著、祥伝社、2016年3月30日刊)

 まず、本書、89ページ。「知らずに意味をあてずっぽうし、そこから自分なりの理解と解釈めいたものを引き出している。Amazonのレヴューなるものはその例で満載ではないか。そもそもレヴュアー本に書かれた日本語の文章が読めていないことが少なくない」。確かにそのとおりかもしれないが、なかには、専門家を上回るものもあり、プロの書き手もレヴューしている。最後の文章は、どう読んでいいか(笑)、おかしな文である。
 そのうえで言うと、本書の題名は、ある意味、言えている。しかし、こういうことを主張した本はすでに何冊もある。というか、2015年秋の時点で出尽くした感もある。少なくとも、手元にある本で言うと、本書以上に「精度が高い(水増し度が低い)」のは、堀紘一『読書は学歴を凌駕する!』(SB新書、2015年12月刊)である。
 そして「いかに読むか」を指南した本で、本書より「新しい情報が多い」と思われるのは、山口周『読書を仕事につなげる技術』(KADOKAWA、2015年10月刊)である。
 なるほど、これらの本は、いわゆる「ビジネス書」の範疇である。そして、白取氏が主張しているのは、ビジネスからは離れた、純粋の勉強である。これは一見ありがたいが、かなり抽象的である。抽象的なものは注意しなければならない。なぜなら、それは、白取氏も本書で注意している妄想と区別がつかなくなるからだ(笑)。氏は、ドイツ語系の「大学」で学んだので、「おすすめ本」はカントなどのドイツ語系哲学者が中心である。確かにカントは重要であるが、必読書の第一には来ない。まず近代における名著から入った方が入りやすいと思う。
 小林秀雄(の講演CD、『現代思想について』)が言っている、近代思想の名著は、2冊。ベルクソンの『物と記憶』と、フロイトの『夢判断』である。小林はカントも読み込んでいて、さらりと要点を述べている。氏のCDを聴くと、かなりの哲学書を読み、こなれていることがよくわかる)本書の言ってることは、「おおむね正しい」んでしょう。しかし、小林秀雄は、「正しいかどうかなんて、大したことじゃない。正しいことなんて、子どもでも言える」と言っている。
 要するに、本書は、その「正しいこと」を、自分が読んだ本(含エンターテインメント本)から長々引用したりして、ページ数を水増しし、文体を、「エラそうにして」、なにかありげに説いた、氏が過去に出された本の内容を繰り返しているだけの本である。
 なにを言ってるかではなかく、どういう著作(思考のあと)があるかで、その人の言っているかどうかに従おうとするかを、私は決めている。このテの「勉強本」ばかり出しているってのもねえ……(笑)。
 しかも、一冊の本をひたすら読めは、いいが、脳は飽きやすいので、100冊くらいの本をスイッチングして読んでいるという、山口周の方が、新しやり方と言える。ちなみに、山口氏の本でも、ビジネス書ではあるが、哲学書は紹介されている。
 しかしまあ、ドイツ語系の哲学書、宗教関係の本もいいですが、やはり、純粋勉強というなら、日本の古典でしょうね。白取氏も日本語ができないと、と言っているし。そのわりには、できてないように見えますが。以上、Amazonのテキトーなレヴューです(笑)。