山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『記者たち 衝撃と畏怖の真実』──事実かも知れないが、映画は紋切り型(★)

『記者たち 衝撃と畏怖の真実』( ロブ・ライナー監督、2017年、原題『SHOCK AND AWE』)

 まず確認しておきたいことは、「大手新聞社」などというが、アメリカには、日本のような、いわゆる全国紙はない。ワシントン・ポストも、ニューヨーク・タイムズも、地方紙である。また、9.11以降の、ブッシュ大統領の「テロとの戦い」の中で、イラクフセイン大統領が、大量破壊兵器を隠し持っているという「ウワサ」は、イラクの反政府勢力と、CIAとのやりとりのなかでできあがった「神話」ではないか。それを、ブッシュが「テロとの戦い」で利用した。当時、「テロとの戦い」がアメリカ政府の最大の関心事であった。どんなことをしても、にっくき「テロ」と戦わねば、アメリカという国の威信が保てない。そういう思惑のもとに、イラクへの空爆が始まった。空爆ののち、踏み込んでみたら、大量破壊兵器はなかった。これは、まぎれもない事実で、政府の多くの人々は、「よく調べもせずに」それを信じて、多くの命を犠牲にした。それを、当時国務長官だったコリン・パウエルは、「生涯の恥」として、その自伝で、誤りを認めている。
 以上は、大雑把な周知の事実であり、この映画は、有力メディアが踊らされたなかで、「ナイト・リッダー」という、多くの地方紙を参加に持つ新聞社の「記者たち」が、唯一真実を求めたということだが、そのあたりの「詰め」、「表明」が、曖昧かつ甘いように感じた。とくに、物語の切り口と人物が、紋切り型かつ予定調和で、監督のロブ・ライナー自身が、クリント・イーストウッドのつもりか、正義派の編集長という、いい役をとって、自身をかっこよく見せてオシマイ(笑)。あまりに大雑把な「記者たち」の活動であった。