山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『2011年版 間違いだらけのクルマ選び』──震災後の車選び

 『2011年版 間違いだらけのクルマ選び徳大寺有恒+島下泰久著(草思社 2011年6月刊)

 私は免許も、当然ながら、車も持ってない。しかし、車には関心があるので、徳大寺氏の本は愛読してきた。『間違いだらけ』シリーズも、前回で最後だと宣言されていたと思うが、今回本書の「復活」が新聞の宣伝に出ていて即購入して即読んだ。

 今度も読みごたえがあった。徳大寺氏は、文章がいいし、車、ひいては車産業に対する考え方もいい。今回、島下泰久氏を共著者に抜擢したのは、一部レビュアーから、徳大寺の本ではないような不満があがっていたが、本書をよく読めば納得がいく。「暮らしの手帖」社ではないが、本書のレビューはすべて、レビューする車をレビュアーが試乗してレビューしている。あたりまえといえばあたりまえだが、つまり、「実際使ってみて……」ということだ。こういうエネルギーのいる仕事を、70歳すぎた徳大寺氏が一人でこなすは大変だし、責任を持とうとすればいっそうできないはずである。そこで、氏の考え方と近く、また誠実な仕事ぶりが認められた、いわば、「後継者」のような島下氏が抜擢されたというわけだ。従って、それぞれの車のレビューは島下氏が行っている。

 しかし、私も徳大寺の文章が読みたいので、最初の「総評」とか、コラムなどを探して読んだ。本書で関心したのは、「震災後の車選び」という観点に立っていることである。それはいかなることかといえば、災害時に車はどう役立つか、そして、産業としての車はどうあるべきか。そういう考え方で車を点検しているところがすばらしい。

 なかで驚いたのは、日産のマーチはなにから何までタイで作り輸入車として販売しているということである。このようにして日本車は劣化のスパイラルに入っていかないともかぎらない。これではいけないと、本書が出たのだと思う。

 そして、ほしくなったのは、コンパクトカーなのに、高級車並の質とメカニズム、セキュリティを持った、フォルクスワーゲン車のポロである。

 レビュアーのなかに、本書(1400円)が高いという方がいらっしゃったが、本の値段がどのようにつけられるか、あまりご存じないようである。本書は、薄利多売を考えていない、版元は、どちらかといえば、硬い内容の本を出している草思社である。この出版社は、大出版社ではない。だから、当然値段は、総費用を部数で割った数字を元にしていて、多少割高にならざるを得ない。企業の宣伝のモーター雑誌とは違うのである。