山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』──ひさびさまっとうな新書

ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』 (エマニュエル・トッド著、堀茂樹訳、文春新書、2015年5月20日刊)

 本書は、いくつかのインタビューの翻訳を集めたものである点において、書籍形式の論文より即時性、一般性、理解しやすさがあると思う。ドイツがそれほどの脅威になっていることについては、EU外にいる日本人にとっては、見えにくい問題であった。しかし、旧東ドイツ周辺諸国の、高い教育水準でしかも低賃金で使える労働力を「食って」成長しているドイツの姿には、説得力がある。しかも、NATOを「利用して」、軍事費も経済的にあげている。確かに、ドイツは、即刻原発を廃止するなど、日本のリベラルから見たら、理想的な国のようにも見えるが、財政赤字がないのも、国内のインフラが相当痛んでいて、橋や建物なども、危ないものがあるという。また、先のルフトハンザの子会社の副操縦士「逆噴射」(笑)事件もあり、表向きの黒字が、裏では結構危ない管理をしているのかとも思わせる。
 エマニュエル・トッドは、「まえがき」でも言っているように、ご大層な思想に、個々の事象を当てはめる学者ではない。人類学というのは、個々の事実から始めて、全体を予想していく行き方の学問だから、そうそうりっぱなことを言ってるわけでもないと思う。現に著者は、「ごく普通の倫理感を持っているにすぎない」と書いている。
 昨日だったか、ドイツ周辺諸国ルーマニア人などの労働力が、大量にイギリスへ移動しているというニュースがBBCだかであったが、これなども、ドイツに安く使われるよりはイギリスへ行った方がいいということではないだろうか。いずれ、イギリスは、EUを離脱すると、トッドは予想しているが、さもありなん。EUがひとつの牢獄になりつつあるということは、案外言えてるのかもしれない。やはり目からウロコの本であるし、こういう、インタビューをまとめたものを新書するのは、なかなかよいと思う。ひさびさ、まっとうな新書である。

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