山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『「超」集中法 成功するのは2割を制する人 (講談社現代新書)』──切り口はズレているが、それなりに有用なアップデート本 (★★★★)

 いまでこそ、『「超」××』という本はあたりまえのように溢れているが、最初に「超」という書名を付けたのは、野口悠紀雄氏ではないかと認識している。本書に批判的な意見というのは、「著者が自慢しすぎる(自分の『「超」整理法』は正しかったのだと。それは、「2:8の法則」(2割の重要なことをやれば、全体の8割がカバーできる」に敵っていた。それを、鼻につくほど繰り返している(笑)。まあ、それはそうかもしれません。本書はその「アップデート」である。果たしてどこが「アップデート」されているかである。
 2割をやれば、8割をカバーできる、は、いいが、さてその2割(コア)をどうやって見つけるかが重要で、これまでの同趣旨の本にはそれが書いてなかったと。では、果たして本書は書いてるのか? それは分野によって、コアを見つけるものが難しいものがある。アップルの説明は、ある視点が欠けている。それは、アップルは、コアの2割(製品開発など)に力を入れたのみならず、実は、製品のデザインにもかなりの予算をかけ、超一流デザイナーと契約している。それで、あの持って自慢のできる製品のイメージがある。
 もうひとつ、アマゾンの成功例の分析にも、重要な視点、切り口が欠落している。それは、やはり、パッケージの美しさ、すきなとき気晴らしのように買い物できるスムーズなシステムの力も大きく、ただ「店を持たない」だけではない。
 つまり、野口氏は、ややズレているのだ。しかし、本書を、「『超』整理法」のアップデートとするのは、まあ、よいでないかと私は思える。そのひとつは、資料、データの公開であり、経済学的にもきちんと説明している点である。どこぞの片付け本のように、「ときめき」(笑)などを基準にしていない。しかも、私が一番重視しているポイントをついている点である。つまり、一番使う「ワーキングファイル」は、机の上とか床などに散乱していて、従来の整理本の整理の対象から取りこぼされているという点である。従来の整理本は、整理しなくてもいい、すでに、本棚に並んでいる資料なり、本なりを整理している。
 本書はコアを十分に見つける指南本とはなり得ていない。そこからレビュアーの不満が出てくる。それには、『ワン・シング(One Thing)』(ゲアリー・ケラー、SB Creative)、『エッセンシャル思考』(出版社ド忘れ)などが、それに当たると思う。この2書は、まさに、「コアを見つけることを行動の規範」としている。この点はアメリカの方が進んでいると思うが、野口氏の本書を読んだときに、上記2書の意義がより強く確認されるので、まあ、星は四つにしておきます。