山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『物理学者が解き明かす重大事件の真相』──ひとつの視点を提示することに意味がある

『物理学者が解き明かす重大事件の真相』(下條竜夫著、2016年1月、ビジネス社刊)

 どのようなものでも、科学は方法論にしかすぎず、「真実」を証明するものではない。ある考え方を提示するものとして意味がある。その点本書の第1章(おそらくこれが、白眉なのではないかと思うが)、「理科系の目からみた福島第一原発事故(1)」は、これまでの日本における原発論議にひとつの視点を与えるものとして意味があるのではないか。ポイントは以下のようである。

1,福島県双葉町大熊町の境にある東京電力福島第一原子力発電所の原子炉建屋で、2011年3月12日から14日にかけて起きた「爆発」は、「水素爆発」で、「水蒸気爆発」のようには、放射能を噴出しない。

2,ゆえに、「水蒸気爆発」が起きたチェルノブイリの100分の1以下の放射性物質放出量である。

3,なぜ汚染地域が広がったかといえば、コンピューター・シュミレーションを使った結果である。これは、実際に人が計算するより莫大な数値となる。

4,福島第一周辺を、永久に入れない汚染地域としたのは、原子力村の学者たちの「希望」である。この時点で、原子力に携わっている学者は、こぞって、原発の恐ろしさを「告発」する「良心的科学者」となる。

5,なぜか? もう誰もこの事故を覚えていない40年後、福島第一の場所を、「高レベル放射性廃棄物最終処分場」にするという、原子力村、ひいては、安倍政権の夢があるから。

 以上のことが、かなり詳しい資料とともに言及されている。これを絵空事ととるか、事実ととるか。たとえ絵空事としても、とんでもなく恐ろしい絵空事である。

 あとの、「福知山線脱線(尼崎JR脱線)事故は車両の軽量化が原因である」(第3章)とか、「STAP細胞小保方晴子氏について」(第4章)、「和歌山独カレー事件の犯人を林眞須美被告と特定した証拠は本物か?」(第5章)などは、「お暇なら」の項目となる。

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