山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『現代語訳 日本国憲法 (ちくま新書) 』──立憲主義に意味がある(★★★★★)

『現代語訳 日本国憲法 (ちくま新書) 』(伊藤真翻訳、解説、2014年1月、筑摩書房刊)

 法曹界に多くの人材を送り込んでいる「伊藤塾」の塾長で、自らも弁護士資格を持つ本書の著者、伊藤真氏は、「集団的自衛権」問題の時だったか、国会で見解を述べておられた。

 憲法うんぬんと言っても、実際は読み通している人など、たとえ国会議員でもそうそういないのではないか。よしや読み通したとしても、難しい漢字を使った難しい表現が完全に理解できる人も少ないではないかと思われる。そういう意味において、古いとか、改正しろというなら、本書のように「現代語訳」を配布するに留めたらどうだ(笑)?

 実は本書は、「あとがき」に意味がある。歴史的事件を云々して氏が間違っているなどというレビュアーがいたが、これは、法的思考なのである。まず、憲法とは何か? それは、普通の法律を真逆で、国民を縛るものではなく、むしろ、国家を、国家権力の暴走を縛るものである。それが「立憲主義」という政治体制ということだ。これは、イギリスのロックが考え出した思想で、イギリス、アメリカ、フランスは採用して、とくに改憲などという声はあがっていない。なぜ改憲か? 要するに、現政権は、「強く国」に見せたいのである。そのためにいろいろ「手段」を使って、「歯止め」=憲法をかいくぐろうとしてきた。

1,「96条先行改正論」(憲法改正手続きを定めた96条の発議要件を、現行の3分の2から過半数に改正して憲法を改正しやすくし、9条をはじめとする他の憲法条項を次々と変えていくこと)→立憲主義は、憲法制定権力が国民にあると考えるから、国会議員にこうしたイニシャティブがあるわけではない。

2,「解釈改憲論」(憲法改正手続きによらず、憲法解釈の名のもとに、解釈を逸脱する法運用を行い、憲法が改正されたのと同じ事実状態を実現しようとする動き)→正面議論を避け、政府解釈を違憲の内容に変更する手法。

 つまり、憲法とは、個人の権利を守るというのが基本であり、それをいろいろなイデオロギーに転化してしまうのは、立憲主義という考え方が、ほとんど理解されていないため、伊藤氏は言っている。

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