山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『「昭和天皇実録」の謎を解く (文春新書)』── 「昭和天皇実録」は新品でもBookOff(オンライン)でお値段つかず(笑)(★)

『「昭和天皇実録」の謎を解く 』(半藤一利御厨貴磯田道史保阪正康著、2015年3月、文藝春秋刊)

 宮内庁が編纂し、東京書籍が販売している、箱入りで2000円程度のそれなりに重みのある装丁の本「昭和天皇実録」を、作家の高橋源一郎氏が小説の新作に、長文引用して『新潮』(2018年4月号)に発表していたので、検証するために、第五巻を購入した。高橋氏引用部分は、「生物学者」でもあり、粘菌だかの新種の発見者でもある、昭和天皇が、生物学者南方熊楠の講義を受けたとある記述を中心になされているが、「実録」では、講義を受けた事実だけが記録されている。その前後の宮内庁職員の行動とともに。
 ビックスの『昭和天皇』(吉田裕訳、講談社刊)を読んでいれば、昭和天皇が、帝国主義の君主としての教育を受け、そのように行動したことは証明されているのがわかるが、「実録」は、「行動を中心」に記録されていて、それに虚偽はないのだろうが、当然のことながら、行動の裏の真理などは記録されていない。とりわけ昭和天皇は、七歳から日記をつけていたと言われるが、その日記は公開されていない。
 本書は、その、発表部分だけを「検証」したものであり、そこには、やはり、「それ以上」のものはなく、しかも、著者の勝手な思いのみ、つけ足されているように思う。つまり、「昭和天皇実録」のサポート本にすぎない。題名はなにやら、ものものしいが(笑)。
 私は、高橋源一郎が、どんな本のどんな部分を引用したのかだけが知りたかったので、「実録」などを蔵書の中に入れておく趣味はなかったので、よく利用している、BookOffオンラインへ売る箱の中に入れて送った。新品のビジネス書などは、もとの値段の半額に近いような、よい値段がつき、また、バーコードのない詩集に類でも、思わぬ値段がつくのであるが、本書は、期待して、「値段リスト」を見ると、「お値段がついたもの」のリストにはなかった(笑)。BookOffに、天皇がどうしたという意志があるわけではなく、市場原理で、本書は売れないと判断されての結果だったようだ。多くの日本の読者にとって、わざわざ買おうという対象ではないようである。(ってな、本だと知りました(笑))。