山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

【詩】「ずるくて器用な詩人」

「ずるくて器用な詩人」

ずるくて器用な詩人は
目に留めたものを
サッと持って行く
まるで
カラスが
捨てられた
エメラルドの指輪を
くわえていくように
それに
器用に加工をほどこし
自作として
世間に出す
まるで
メキシコ人の
ワルモノインディアンが、
観光客に
まがいものを
売りつけるように
ずるくて器用な詩人の前途は
揚々(と、本人は信じている)
だけど
それを見ている
眼があることは
お忘れにならないで
なんせ盗んだものなので
一皮剥けば
ご都合主義
ちゃんと私は見ている
私? メキシコのある街の
岩場の道路で、
インディアンの強盗に襲われ
眉間に一発の弾丸
そののち
岩にぶつかり
車大破で
夫とともに
即した
女です。
指に、大きな
エメラルドの
指輪を填めていました。
生きていた
ときは。

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