山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

【詩】「この女たちのすべてを語らないために」


「この女たちのすべてを語らないために」

狭い焼却炉で焼かれていく父の
最後の陰毛の一本、その色、
あるいは、宇宙空間に漂うナチス
文字。ああ、オデュッセウスよ、決して
渦巻きを見つめてはならぬ、かつて、
私は地中海の水に足を浸したことがあった
九月の初めで、水は、
氷を思わせるほど冷たかった、だから、
難民の粗末な船から落ちた子どもは
死ぬ
そんな未来の悲惨さなど知らない私は、
それでも必死で水中を見つめ、そこに
ヴァレリーがほほえむのを
見た。
見よ、魔女はどこにでもいる、この女たちの
すべてを語らないために、
同題の、はじめてのカラー作品を作った
ベルイマンは、あえて、
その作を失敗作とする
必要があった。



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