山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

【詩】「はげ鷹」

「はげ鷹」

吉田健一はたったひとつの地名でも
詩になると言った
私にとって遠州というのが詩である
それはその名のとおり遠く
州であるその谷の砂地には
いつでもはげ鷹の死骸があって
陽に照りつけられて匂う
それは私にとって父性であり
父性とは最初に子に知を与えるものである
ゆえに父は私に人生最初の歌を教えた
まさに朝日に向かって歌いながら
「朝はどこから来るかしら?
 光の国から来るかしら?
 それは明るい家庭から
 朝は来る来る朝は来る」
ひとり川底を歩くとき
やがては父になるその少年と
その少年を送る私が重なる時
時間は金色に輝き
はげ鷹の死を祝福する