山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

『第二の性』「うまい訳」

拙訳に対して、「FB友」で、「もっとうまく訳してくれ」という人がおりました。ので、「うまい訳」を紹介します。

ボーボワール第二の性』は、新潮社から、1997年に新版が出ています。


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第一章 生物学的条件

「女? 簡単ですよ」と、簡潔な言い回しが好きな人たちは言う。「女とは子宮であり、卵巣である」女とは雌である。女を定義するにはこの言葉で十分ですよ」。この「雌」という言葉は、男の口を通ると侮辱的なひびきをもつ。そのくせ、男は自分の動物性は恥ずかしいとも思わず、「あいつは雄だ!」と言われると、かえって得意になる。「雌」という語が軽蔑的にな意味になるのは、この語が女を自然のなかに位置づけるからではなく、その性(セックス)に閉じ込めるからである。罪のない動物の場合まで、雌が男にとって軽蔑すべき、敵視すべきものに見えるのは、明らかに男が女にいだく不安にみちた敵意のせいである。それなのに、男はそうした感情の根拠を生物学に求めようとする。

(井上たか子、木村信子監訳、あとがきの分担を見ると、この部分は、井上氏)

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管見:原文ではカギ括弧(欧文では"")は使ってない。文章は短く切られていない。確かに「読みにくい」。それは、ボーヴォワールの文体なのであって、こういう文体を書くというところに、本書の「文学性」「哲学性」が存在する。上のような「読みやすい」文章は、むしろ、週刊誌的ですらあると思う)

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