山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

【詩】「古城」

「古城」

まーつかーぜ、さーわーぐー、おーかのうえ~と、いとこたちが歌っていたのを初めて聴いて、仰天した。父の実家の「遠州」にて。今は浜松市になっているが、当時は、静岡県周智郡春野町のそこは、まー、ドイナカだった。いつも、彼らに対して、「都会の少女」の優越感を持っていた私は、そんな歌が存在していたことに衝撃を受けた。

古い城である。新しい城なんてない時代に。ことさらに、古を強調する、しかも、「古城よ、一人何忍ぶ?」と問いかけているのである。古城がひとり黙想しているのである。

夏草やつわものどもが夢のあと、

なんである。松風が騒いでいるので、きっと秋なのだろう。
栄華の夢を胸に抱きノノあ~あ~

そのときは、三橋美智也の、いかにも古城然とした声も知らず、いとこのヨーコ姉(ねえ)か、ノリ坊が、歌いながら、踊りをつけているのに深く魅入られていた。そう、
かどじま(遠州の家)にいくと、いとこ四人、わたちたち姉弟三人で、集まったおとなたちを前に演芸ショーをやった、そのときの演し物。

そして、五十年も過ぎてしまって、いとこたちのゆくえは知らず、遠州の古い家も売り払われて、思い出も、父の故郷も消失した。

西暦二千年も、十九年になって、私は、犬の散歩で、まさに、古城の跡地を毎朝歩いているのであるが、松はなく、風もなく、妙に新しい顔をした石垣が、中国や韓国からの客を迎えている。もう、どこにもない、
古城
カルカッソンヌの城内へも行ったが、世界遺産のあすこにも、騎士たちの息吹は感じられなかった、
ひとはなぜ、城などというものを作ったのか、時間はあすこにしかない、すなわち、
三橋美智也の受け口の、
声のなかにしか

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