山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

【詩】「詩集」

「詩集」

たくさんの詩集をありがとう。
そういえば、私も出したんだがね、
きみに送るなんて思いつきもしなかったよ。だって……(いいよどみ、笑いかけてやめる……)、私の詩集は、ちゃんとした本なんだ。その……小冊子とは違うんだ。ちゃんと、それなりの紙が選ばれ、プロの装丁家が計算して作ったんだ。この端正なかたちのなかに、私の言葉が入っているんだ。こういう端正な美しい紙のかたちの中に、言葉が入れば、ま、誰でも、というわけにはいかないが、それなりの詩人が書いた言葉が入れば、それが詩になるんだ。手の届かないなにかに。そう言っちゃなんだが、きみのは……ま、冊子に毛が生えた程度のもんだろ。そんなかたちの中に入っている言葉は、もうすでにして威厳もなく、安っぽいんだよ。ありがたみがないっていうのか。詩を愚弄しているとも言えるよ。

あ、そうですか。

そうだよ。どんな飛んだ言葉を書いても、こういう端正な形式に込めれば、詩になるんだよ。きみは、そこんとこを、まるで勘違いしているよ。

は、勘違いですか?

そうだよ。そんなの詩じゃないよ。

そうして日が暮れて、大工は家に帰っていく。大工は、お城を造っていた、江戸時代の大工だ。りっぱな城。殿さまが住まう城。
だけど、完成したあかつきには、それは、大工が近寄れもしないものになる。それが城ってもんだ。

悲しい、悲しい、悲しい。ロバート・ローウェルよ、なにかわたしのために、この冊子の詩集の著者のために、なにか詩を作っておくれ。

and your life is in your hands.*


*****

* Robert Lowell  "The Exile's Return"、最終行。

イメージ 1