山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

【詩】「みちゆき」

「みちゆき」

この世のなごり。
夜もなごり。
死にに行く身をたとふればあだしが原の道の霜。
一足づつに消えてゆく。
夢の夢こそあはれなれ。
貧しさに負けた。いえ、幕府に負けた。
この町を追われた、いっそきれいに死のうか。
ちからのかぎり生きたから、ミレン
などないわあああ。
がんじがらめの身分制、お寺は秘密警察
しあわせなんて望まぬが人並みでいたい。
花さえも咲かないふたりは枯れススキ
だけどね、「その下」を掘ってみな

*Maint joyau dort enseveli
Dans les tenebres et l'oubli,
Bien loin des pioches et des sondes ;
Mainte fleur epanches a regret
Son parfume doux comme un secret
Dans les solitudes profondes.

たくさんの宝石が眠ってるんだよ
暗闇と忘却のなかに、つるはしも測定器も届かない場所に
たくさんの花々が心ならずもまき散らしている
秘密のやさしい香りをね
深い孤独のなかで

枯れたススキの下の下

ボードレールはラフォルグの
パリにいる。

1703年に死んでしまうおはつ、徳兵衛は、
ボードレールを知らず、
元号は元禄。
天皇は東山。
16年。
宝永、正徳、享保。元文、寛保、延享、寛延、宝暦、明和、安永、天明、寛政、享和、文化、文政、天保、弘化、嘉永安政、万延、文久、元治、慶応、明治、大正、昭和、平成
枯れススキは昭和。
あいだに平成入ってる。
たどりつけない令和。

このアタシを捨てて。だめだ、おまえがすべて。
死ぬ時はいっしょと、あの日決めたじゃないか。
時代の風の冷たさにこみ上げる涙
苦しみに耐えるふたりは
枯れススキ

剃刀取つて喉に突立。
柄(つか)も折れよ刃も砕けとゑぐり、
くりくり目もくるめき。
苦しむ息も暁の知死期につれて絶果たり。

うんぬん、うんぬん、るんるんるん、
未来成仏疑ひなき恋の。
手本となりにけり。
ほんまかいな、ダンテさん。
てなてなもんや、
てなもんや、アリギエーリ。


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*Baudelaire "Les Fleurs du Mal" 'Spleen et Id?al' ⅩⅠ Le Guignon より


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