山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

【詩】「惑星の名前できみを呼ぼう」

「惑星の名前できみを呼ぼう」

今では
雨が降っても
簑を着るひとはいない。
湿った藁の感触を
思い出すひとはいない。
宇宙最速の
光さえも出られない
かすかに
きみの寝息が聞こえる
きみの出自
きみの記憶
きみの知識
きみの教養
のなかに、
湿った藁はあって
きみは私あてに
手紙ではなく
ひとを介して伝言する
その男に、きみはこういうはずだ
伝えてくれ彼女に
その男は苦笑いもせず
小さくうなずく
帰ったら
そう妻に伝えるよ
湿った藁を共有する私たち
愛なんて湿った……
湿った?
私は人混みを歩きながら
きみの寝息を思い出している
光さえも出られない?
けれどぼくたちの
愛は出られる
激しく泣く代わりに
惑星の名前できみを呼ぼう

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