山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

原作『決定版 日本のいちばん長い日』──右傾化を助長する危険な本(★★)

(映画ではなく、原作の方であります)

『決定版 日本のいちばん長い日』(半藤一利著、文春文庫、2006年刊)

 本書は、昭和40年(1965年)に刊行されたが、当時は、大宅壮一「編」となっていた。「編」であるかぎりは、フィクションではなく、氏が書いたのではなく、さまざまな「原稿」を「編集」したということだ。そのさまざまな原稿とは、ほんとうの「著者」の半藤一利(とその協力者)が、多くの関係者(それらは本書にあげられている)に取材し、書き上げたものであると概ね見てよい。これらの関係者から語られた「事実」は、語られたかぎりにおいて、一応の事実であると見てよい。それらの一人一人の「事実」を、ある歴史観に沿って構成したのが本書である。それは、半藤一利の1965年における歴史観である。
 第二次世界大戦に参戦した日本が、はじめからおわりまで、いかなる考えのもとに行動したかという、世界史レベルの動きのなかに本書が「語っている」事実を埋め込むなら、それは、かなり小さな「内輪揉め」、一部の将校たちによるクーデター計画の顛末と見てよい。まさに、2.26事件のようなものである。それを「劇的に構成した」のが本書である。ここに登場した人物たちとその動きによって、日本は本土決戦を避けられたとは考えない方がいいように思う。どう考えてみても、本土決戦は不利で、そんなもので勝てるなどと考えるのはまったくの幻想である。そこまで一部の将校たちは、まともに考える能力を失っていたのである。それが「戦争」というものである。そこまで踏み込んで考えないと、本書はかなり危険な書となってしまう。