山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

【昔のレビューをもう一度】『犬ヶ島 』──ゴダールはすでに終わっている。 (★★★★★)

『犬ヶ島』(ウェス・アンダーソン監督、2018年、原題『ISLE OF DOGS』 2018年6月4日 10時52分 ウェス・アンダーソンは、世界でほぼただひとり、映画で「現代思想」を表現している作家だ。それは、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)の時にすで…

【詩】「リルケに捧ぐ」

「リルケに捧ぐ」 主に捧げる秋の詩の 錆色の葡萄傷心だけが私の唯一の収穫 宇宙の果てに消えた父を探して 出かけねばならないどうやって? 宇宙飛行士としての訓練もしてなくて 宇宙服もなくNASAにも登録してなくて ナンタケットだけは覚えている捕鯨の…

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 』──落ち目なのはタランティーノ(笑)(★★★★)

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 』(クエンティン・タランティーノ 監督、2019年、原題『ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD』) 歴史=事実というものは変えてはいけないのである。そういうことが許されれば、ホロコーストはなかったという筋…

【昔のレビューをもう一度】『キングスマン:ゴールデン・サークル』──今年ベスト3(早いか(笑))!(★★★★★)

『キングスマン:ゴールデン・サークル』(マシュー・ヴォーン監督、2017年、原題『KINGSMAN: THE GOLDEN CIRCLE』)2018年1月9日 7時57分 なんたって発想が新しい。死んだはずだよおトミさん~♪のハリー(コリン・ファース)に拾われ、キングスマンとして教…

【昔のレビューをもう一度】『あるいは裏切りという名の犬 』──「大ワル」フレンチオヤジ(★★★★★)

『あるいは裏切りという名の犬 』(オリヴィエ・マルシャル監督、2004年、原題『36 QUAI DES ORFEVRES』)2007年2月5日 10時19分 ダニエル・オートュイユ、ジェラール・ドュパルデューの二人の、「ちょいワル」イタリアオヤジなんて目じゃない、「大ワル」フ…

【詩】「仮死の秋」

「仮死の秋」 「……何より顕著なのは、『知の考古学』から厳しく身を引き離そうとしている仕草である」(蓮實重彥著『批評あるいは仮死の祭典』せりか書房、1974年刊より) 20年前は、蓮實重彥と橋本治を愛読し、「ふたりのハ」と呼んでいた。あれから20年以…

【詩】「記憶」

「記憶」 記憶の中の豊橋駅は、 脳の右側でしか再現されずそれは 古代都市のような階段を持ち床はいつも 水で濡れている 階段の右側はガラスのウィンドウがあってそこに 人形が縦横に置かれて 上っていく者を見つめている 痰ツボをはじめて知った さらに右へ…

『イソップの思うツボ 』──和製タランティーノ、上田慎一郎(★★★★★)

『イソップの思うツボ』( 上田慎一郎 中泉裕矢 浅沼直也監督、2019) 年)上田慎一郎 中泉裕矢 浅沼直也 私はかねがね、日本映画が世界レベルで勝負をかけるには、ハリウッドのまねは不可能、異国シュミを売るのは古すぎ、素人まるだしシュールな映画はお手…

【詩】「不可能」

「不可能」 ヴァレリーの十行詩 ababccdeed と脚韻を踏む『蛇の粗描』 ?bauche d'un serpent を日本語に訳すはいいが同様な韻を踏むことは不可能であるこの蛇は vip?re マムシである 十行詩とは十行の節が一連を形成している詩で、ababccdeed と韻を踏むヴァ…

【詩】「詩法」

「詩法」 ヴァレリーのいない遠州では蛇も 粗描されない詩法の数に戸惑うばかりだ だがそれは当然だった記憶のために詩が 必要だった韻文は筆記と同等で 残る 鏡の中に見るは遠州の祖母の眼 オオサという食料品店の娘だった そうな山奥の食料品店すなわち い…

『ロケットマン 』──タロン・エガートンの軽さが作品を脱物語化(★★★★★)

『ロケットマン』(デクスター・フレッチャー、2019年、原題『ROCKETMAN』) すでに若手俳優界も様変わりして、容姿がすぐれた人間などどこにでも落ちているので、まず演技力がなければオハナシにならない。かてて加えて、オリジナリティー、現代の軽さも身…

【詩】「はげ鷹」

「はげ鷹」 吉田健一はたったひとつの地名でも 詩になると言った 私にとって遠州というのが詩である それはその名のとおり遠く 州であるその谷の砂地には いつでもはげ鷹の死骸があって 陽に照りつけられて匂う それは私にとって父性であり 父性とは最初に子…

ブログのおまとめ

いろいろ開設してますが、こちら↓におまとめ……といっても、まだ「あって」ますが。ブログ界のロングテール、一強、そういう時代なのかも。 https://ameblo.jp/kumogakure39/

【詩】「アテネ」

「アテネ」 おとうさま、あなたが病に対してパロールを拒んだ時から、死すべき者たちは苦しまねばならなくなりました。 わたくしは、そのものたちのエスを癒すため、ニューヨークという大都会で、春をひさぐ仕事を始めました。 アテネ、ゼウスの娘。 ゼウス…

【昔のレビューをもう一度】 『愛を読むひと』(2008年)の監督作。『トラッシュ!』(2014年)

【昔のレビューをもう一度】 『愛を読むひと』(2008年)の監督作。『トラッシュ!』(2014年) (FBでの会話↓) 細田傳造>ナチス時代のベルリンの街角から始まるアメリカ映画『愛を読む女』 山下晴代師に於かれましては?小生は印象が深うございました。…

【昔のレビューをもう一度】『ドイツ零年』(ロベルト・ロッセリーニ監督)(DVD)

『ドイツ零年』(ロベルト・ロッセリーニ監督)(DVD) 1947年、廃虚のベルリン。墓掘りの仕事をしている少年は、いくつだ?と聞かれ、15歳と答えたが、どう見てもそうは見えない。実際は12歳で、「仕事泥棒」と言われそこを追い出される。逃げる途中で、道…

【アート】「クリムト展_ウィーンと日本1900@豊田市美術館」(2019/8/16)

「クリムト展_ウィーンと日本1900@豊田市美術館」 グスタフ・クリムトの生涯と、家族、友人などの、作品と写真、グッズで構成された、クリムトのすべてといっていい展覧会。 工芸学校で修行したクリムトは、絵の道具を扱う手法は確かであり、装飾から出発…

【ニュース】『NHK特ダネ? 昭和天皇「拝謁記」』考

『NHK特ダネ? 昭和天皇「拝謁記」』考 盆休み、実家でふだんは見ないテレビを見ていると、NHK「新資料発見!昭和天皇の秘められた事実!」などと銘打ち、何度も自慢げに「宣伝」している。小分けに放送しているようだが、なんでも初代宮内庁長官、田島道…

【詩】「惑星の名前できみを呼ぼう」

「惑星の名前できみを呼ぼう」 今では 雨が降っても 簑を着るひとはいない。 湿った藁の感触を 思い出すひとはいない。 宇宙最速の 光さえも出られない 穴 かすかに きみの寝息が聞こえる きみの出自 きみの記憶 きみの知識 きみの教養 のなかに、 湿った藁…

【DVD】『ラ・ジュテ 』──本作を見たらゴダールはオワコン(★★★★★)

『ラ・ジュテ』( クリス・マルケル監督、1962年、原題『LA JETEE』) ドキュメンタリーでありながら、想像力を刺激された『ベトナムから遠く離れて』を、確か渋谷の映画館のなにかの特集で見て以来、このクリス・マルケル監督の、『ラ・ジュテ』(1962年)…

【詩】「カラスが蝉を喰っている」

「カラスが蝉を喰っている」 マンションの庭の林立する木立に、蝉が鳴き始めて久しい。じーじーじーと途切れなく続いているのだが、それが「ジジッ」と途切れるときがある。一度見たことがあるが、カラスが蝉を、パクッとやっているのである。蝉は喰われる寸…

今日の引用

【今日の引用】 「人生観などというものも昨今ではイデオロギーの類に堕しているのであって、このイデオロギーはすでにその名に値する生など存在しないのに、その点について人を欺いているのである。」(テオドール・W・アドルノ『ミニマ・モラリア』三光長…

【エッセイ】「年々バカが増えていることを愁えるこの記念日」

「年々バカが増えていることを愁えるこの記念日」 どこかのバカが某有名人の文章の、「無断シェア」ではなく、「無断引用」をしていた。なんでも、広島原爆は、アメリカの戦争犯罪だとか。この文章には、戦争犯罪なる言葉の意味をはき違え、かつ事実誤認もは…

【本】The Portable Hannah Arendt(Edited with an Introduction by Peter Baehr)Penguin Books 2000)

The Portable Hannah Arendt(Edited with an Introduction by Peter Baehr)Penguin Books 2000) 「ハンナ・アーレント・ハンドブック」 本書は2013年11月、ロンドン一大きな書店、Foylesで購入。この書店は、各本棚に書店員の手書きのレビューが付けられ…

『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』──本年上半期ベスト1(★★★★★)

『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』(ジル・ルルーシュ監督、 2018年、原題『LE GRAND BAIN/SINK OR SWIM』) わが国では、憲法論議が喧しいが、民法が整っている国こそ文明国であると、民法の本で読んだことがある。考えてみれば、民法などな…

『マーウェン』──バック・トゥ・ザ・フューチャー with 人形(★★★★★)

『マーウェン』(ロバート・ゼメキス監督、 2018年、原作『WELCOME TO MARWEN』) よくできている映画なのだが、大ヒットははなから難しい映画でもある。なんせ、大半は「人形」が「演技」している。状況設定も複雑である。事実をもとにしているが、事実でも…

【日本の短編を読む】高見順「或るリベラリスト」

【日本の短編を読む】高見順「或るリベラリスト」(『文藝春秋』昭和26年5月号)(四百字詰め約90枚) 蓮實重彥は『物語批判序説』で、物語=紋切り型を批判したが、それは物語のきれいな型に収まっているものを、小説とはしないという考え方だった。そして…

【詩】「サイコキラー、Qu'est-ce que c'est? 」

「サイコキラー、Qu'est-ce que c'est? 」 期待していたものに あざむかれて 世界は裏返り 宇宙を見失うとき ひとは、詩を書こうと 思いつく。 サイコキラー、Qu'est ce que c'est? ことばが人と共通と知ったとき 裏切ってみたい感情が発明される サイコキラ…

恥ずかしい人々

「恥ずかしい人々」 ネット上で、詩人、作家、学者、文化人として、文章を公にしている人々で、国会議員選挙で、しかも、戦争をするかもしれない党と党首が云々されている状況で、そんなことはまるで存在しないかのように、延々と私事、身辺雑記、花鳥風月、…

自民改選議席割れ確実に

自民、改選議席割れが確実に7/21(日) 22:58配信(Kyodo)めでたい。