山下晴代の「積ん読亭日常」

まっとうな本を読んでいく。

#詩

【詩】「すずき(鱸)」

「すずき(鱸)」 すずきでまず思い出すのは、平家物語である。 平家かやうに繁盛せられけるも、熊野権現の御利生(ゴリシヤウ)と聞こえし。其故は、古へ清盛公、いまだ安芸守たりし時、伊勢の海より、船にて熊野へ参られけるに、おほきなる鱸の、船に踊り…

【詩】「最高峰」

「最高峰」 詩人のHさんは、杜甫の詩を「古今東西の詩の最高峰」と書かれていましたが、ここで、詩というのは、日本では、古来、和歌に対して詩、すなわち漢詩であったので、その最高峰ということになります。一方、新体詩、近代詩、現代詩の歴史が日本には…

【詩】「資本論(Das Kapital)」

「資本論(Das Kapital) 第一巻 資本の生産過程(Der Produktionsproze? des Kapitals) 第一篇 商品と貨幣(Were und Geld) 第一章 商品(Die Ware) アメリカのアップル社にスパイに入った、中国企業からのまわしモノのスパイ、当然アメリカ国籍のワスプ…

【詩】「シニフィエ、シニフィアン、ジャパニーズ・ダイアナ・ロス」

「シニフィエ、シニフィアン、ジャパニーズ・ダイアナ・ロス」 「シニフィエというのは音、シニフィアンというのは意味です」と、井筒俊彦は、高野山での、「言語哲学としての真言」という講演で言っている。シンプルなことなのである。しかし、これを、しち…

【詩】「ジュリアン・グラックを読めなくて」

「ジュリアン・グラックを読めなくて」 なんとなく、ジュリアン・グラックの『シルトの岸辺』を読もうとした。細かい活字の「全集」の、「Le Rivage des Syrtes』の箇所にpost itが入っていて、章題、Une Prise de commandement。そして、J'appartiens a l'u…

【詩】「みちゆき」

「みちゆき」 この世のなごり。 夜もなごり。 死にに行く身をたとふればあだしが原の道の霜。 一足づつに消えてゆく。 夢の夢こそあはれなれ。 貧しさに負けた。いえ、幕府に負けた。 この町を追われた、いっそきれいに死のうか。 ちからのかぎり生きたから…

【詩】「上意討ち」

「上意討ち」 私憤ではない、 上意討ちとは、上の者の命令で 殿の敵を討つことである。互い、 恨みなどなく、果たし合う。 不条理な武士の道 森十兵衛二十八歳は、 田中源四郎を討ち取れとの命で、 全国への旅に出る 二人は何度も 偶然出くわす、しかし、 な…

【詩】「捨てるもの」

「捨てるもの」 まず、 ベンヤミン それから ラカン 折口信夫にも 寄ってられない 柳田国男は捨てない ヘーゲルはとうに捨て たぶん カントにも寄ってられないだろう ゲーテはかなたで ホバリング なれど いずれ 捨てることになるだろう さういふ 枝葉に か…

【詩】「春樹」

「春樹」 ボクの名前は、島崎春樹。 女学校の教師だ。 教え子を愛している 佐藤輔子(すけこ) ヘンな名前。そして、両親が決めた 許嫁がいる。だからボクは、 旅に出た。巡礼の旅だ 関西から四国まで 明治女学校ではボクの代わりに、 北村ってやつが教師に…

【詩】「花宴(はなのえん)」

「花宴(はなのえん)」 恋はスパークリングワインみたいにこころを酔わせるわ 女は朧月みたいに姿をくらませる おいらは二十歳になって外来のダンスだわ、どうせ この世はブラックホールのなかのブラックホール 義母は息子をまだ恋している 息子は義母を慕…

【詩】「紅葉賀」

「紅葉賀」 宮はやがて御とのゐなりける、すなわち殿舎にもどらず、 帝の部屋に泊まる にもかかわらず翌朝源氏から 昨日の舞の感想を求められつい応えてしまう。 しみじみ、感動いたしました。古代の女と男、義母と息子 先帝の長寿の祝い、唐の舞をりっぱに…

【詩】「ねじの回転」

「ねじの回転」 ヘンリー・ジェームズの『ねじの回転』は、彼の恐怖小説の怖さからいったら、中程度の作品だ。「ねじの回転」というイメージはいかにも怖ろしげだが、作中、「ねじの回転」は出て来ない。果たして、この題名によって、なにを言いたかったのか…

【詩】「宣長の余白」

「宣長の余白」 紫文要領は余白こそうつくし 式部という亡霊のあれこれ ためつすがめつ 脱稿してうすきいろの 紙に染むは時をへだてた 墨のにおい ひとつに源氏物語の小琴 つま弾いてたそがれる 幹空洞 その余白によって はげしく読まれていくものがある 激…

【詩】「この女たちのすべてを語らないために」

「この女たちのすべてを語らないために」 狭い焼却炉で焼かれていく父の 最後の陰毛の一本、その色、 あるいは、宇宙空間に漂うナチスの 文字。ああ、オデュッセウスよ、決して 渦巻きを見つめてはならぬ、かつて、 私は地中海の水に足を浸したことがあった …

【詩】「序文の海」

「序文の海」 たとえば、L・ビンスワンがーの『夢と実存』は、M・フーコーの序文の方が、本文より長い。そこまでいかなくても、フーコーの序文は常に長く、そこで、本文が要約され、要点も示されているから、それを飛ばすことはできない。 おおむね外国の…

【詩】「多くネットに流れている詩をパロってみまちた」

「多くネットに流れている詩をパロってみまちた」 あなたのことを忘れたくても 忘れられないコカコーラゼロ だってあなたはわたしの…… なんなんだろ? 思い出は桜色のスパークリングワインみたいに はじけて、 影のなかに溶けていく こころとこころを重ねて …

【詩】「W.H.オーデンを読む夜」

「W.H.オーデンを読む夜」 その五十番目の詩で、オーデンは、 1939年に死んだ、W.B.イェイツへの追悼詩を書いている。 He disappeared in the dead of winter: 冬の死のなかに消えた彼 小川は凍てつき、彼の体の地方(provinces)は、しゃれた港とは縁遠く、…

【詩】「大御所、有名人、賞、古本屋」

「大御所、有名人、賞、古本屋」 「アメリカ詩選」の目次を見ていて驚くのは、日本の現代詩でかつて言われた、「マイナーポエット」のような詩を書いている詩人は皆無である。況んや、「イギリス詩人」をや。「フランス詩人」にもないし。 「大御所」にハー…

【詩】「壊れたイメージの山」(A heap of broken images)

「壊れたイメージの山」(A heap of broken images) きみは、なんの権利があって、ネットに発表したひとの詩を添削しようとするのか。べつに頼んでもいないのに。それは、自分は、この詩の作者より優れた詩人であると思うから、頼んでもいない添削をする意…

【詩】「詩集」

「詩集」 たくさんの詩集をありがとう。 そういえば、私も出したんだがね、 きみに送るなんて思いつきもしなかったよ。だって……(いいよどみ、笑いかけてやめる……)、私の詩集は、ちゃんとした本なんだ。その……小冊子とは違うんだ。ちゃんと、それなりの紙が…

【詩】「ねむい」

「ねむい」 ねむい。眠さのなかでなにか目覚めるものはあるのだろうか? それは飯田線の列車の揺れだったりする。祖母の家からお祭りが終わり、三河一宮から豊橋駅へ、帰っていくのが妙に悲しくて。その、 コットン、コットン、揺れる床の振動の、 三十年後…

【訳詩】T.S.エリオット「J・プルフロックの恋歌」(『プルフロックとその他の観察』(1917)より))1

T.S.エリオット「J・プルフロックの恋歌」(『プルフロックとその他の観察』(1917)より))1 じゃ、行こうか、きみとぼく 空に夕暮れがまき散らされるとき 麻酔をかけられた患者みたいにテーブルの上の 行こうよ、とある半寂れの通りを抜けて、 ごち…

【詩】「そういえば、川崎長太郎という私小説作家がいたな」

「そういえば、川崎長太郎という私小説作家がいたな」 わが寝室は、左右の壁に 作り付けの引き戸付きの本棚があり、仰向きに寝た位置から 左側の一面は、 日本作家の本が並べてある。 右側の本棚よりに、万年床の蒲団が敷いてあり、 まー、これが、いまどき…

【詩】「ずるくて器用な詩人」

「ずるくて器用な詩人」 ずるくて器用な詩人は 目に留めたものを サッと持って行く まるで カラスが 捨てられた エメラルドの指輪を くわえていくように それに 器用に加工をほどこし 自作として 世間に出す まるで メキシコ人の ワルモノインディアンが、 …

【詩】「国際電報」

「国際電報」 切り裂く 雨 情事の オワコン センチュリーハウスの エコロジー部門 流れゆく サンドイッチの 包み さようなら ニンフたち 鷲は 舞い降りる 小説 作法 詩を 書きとめた メモ が 見つからない

【詩】「Aujourd'hui maman est morte.」

「Aujourd'hui maman est morte.」 その うすい小説を閉じれば 脳裡に残る言葉は意外にも マレンゴ 北アフリカの都市の名前 明るい太陽 何発かの 銃声 Camus自身が 淡々と 読む 声を聞けば 私はいつしか 郷島にいて 天竜川の支流の 深い渓谷の 底に いて 禿…

【詩】「シェークスピアから一行引くなら」

「シェークスピアから一行引くなら」 フランス人なのに ラフォルグは シェークスピアに どっぷりつかっているようだ そう 私がもし シェークスピアから一行引くなら 戯曲ではなく ソネット18番の 「君を夏の一日に喩えようか。」* Shall I compare thee to a…

【詩】「やーめて、そのショパン(松任谷由実ではなく、あいかわらず、デーモン小暮が歌う)」

「やーめて、そのショパン(松任谷由実ではなく、あいかわらず、デーモン小暮が歌う)」 雨音は 蕎麦の実の殻を取り除く 調べ どーやってやるのかというと、 筵の中央に人が立ち、 両端を持ち、 その筵部分に べつの人が蕎麦の実を放り投げ 真ん中に立ったひ…

【詩】「デーモン小暮カヴァー『Never』、あるいは、廣野」

「デーモン小暮カヴァー『Never』、あるいは、廣野」 傷つき壊れた時が 強く「なる」チャンス「だから」 ココロを閉ざさない「で」 くりかえし「ドア」 叩いて さあ ねばぬばねばねば 「IF」愛さなければ ねばねばねばねば FLY! 実は親孝行だという 白塗り…

【詩】「そして世界は泥である」(E fango e il mondo)

「そして世界は泥である」 鉛色の空を 斜め上方から 降りてくる 禿鷹 鉱山の任地のゲーテと 重なる 人妻に恋していた そして その旅の詩を もじった ベケット とも しかし彼は 誰も 恋してなかった 詩人の 二重写し けふ は ふじわら の みちなが の お つ や…